生物統計学 学習ノート概念・導出から実践的な解釈まで

CHAPTER 09 · TOPIC 01

生存曲線の推定

右打ち切りを含む生存時間からKaplan–Meier曲線、Greenwood標準誤差、信頼区間を求めます。

このページの内容
  1. 母生存関数と標本生存曲線
  2. 事象、右打ち切り、時間起点
  3. Kaplan–Meierが区間確率を掛ける理由
  4. 10人の例を段階的に計算する
  5. Greenwood公式:生存率の不確実性
  6. Wald区間とlog–log区間
  7. ハザード関数との関係
  8. Kaplan–Meier推定前の確認

生存時間解析は、死亡、再発、回復など事前に定義した事象までの時間を扱います。追跡終了まで事象が起きない右打ち切りを情報として残しながら、生存関数を推定する代表的方法がKaplan–Meier法です。

母生存関数と標本生存曲線#

母生存関数S(t)=P(T>t)=1F(t)S(t)=P(T>t)=1-F(t)
打ち切りなしの標本比率S^(t)=#{Ti>t}n\hat S(t)=\frac{\#\{T_i>t\}}n

S(t)は起点からtを超えて事象なしでいる確率です。0から始まり、時間とともに増えない関数です。打ち切りがあると単純な人数比では追跡時間の違いを正しく扱えません。

事象、右打ち切り、時間起点#

  • 全対象に一貫した時間起点を定義
  • 何を事象とするかを事前定義
  • 事象時刻と最終確認時刻を区別
  • 追跡終了・脱落・研究終了で事象未確認なら右打ち切り
  • 事象指標の符号化を明示

Kaplan–Meierが区間確率を掛ける理由#

異なる事象時刻をt₁<t₂<…とし、直前の危険集合をnⱼ、同時刻の事象数をdⱼとします。各時刻までの生存は、それ以前まで生存した条件付き確率の積です。

条件付き生存割合P(T>tjTtj)=njdjnjP(T>t_j\mid T\ge t_j)=\frac{n_j-d_j}{n_j}
積極限推定量S^(t)=tjt(njdjnj)\hat S(t)=\prod_{t_j\le t}\left(\frac{n_j-d_j}{n_j}\right)

曲線は事象時刻で階段状に下降し、打ち切り時刻では高さを保ちます。同時事象はdⱼとして一度に処理します。

10人の例を段階的に計算する#

時刻危険数nⱼ事象dⱼ条件付き生存Ŝ(t)
21019/100.900
6918/90.800
7826/80.600
8514/50.480
9413/40.360
12211/20.180
t=7S^(7)=9108968=0.600\hat S(7)=\frac9{10}\frac8{9}\frac6{8}=0.600
t=12S^(12)=0.360×12=0.180\hat S(12)=0.360\times\frac12=0.180

Greenwood公式:生存率の不確実性#

分散Var^[S^(t)]=S^(t)2tjtdjnj(njdj)\widehat{\operatorname{Var}}[\hat S(t)]=\hat S(t)^2\sum_{t_j\le t}\frac{d_j}{n_j(n_j-d_j)}
標準誤差SE[S^(t)]=S^(t)tjtdjnj(njdj)SE[\hat S(t)]=\hat S(t)\sqrt{\sum_{t_j\le t}\frac{d_j}{n_j(n_j-d_j)}}

後半ほど危険集合が小さくなり、一事象の寄与と不確実性が大きくなります。曲線末尾は少人数で支えられるため過度に解釈しません。

Wald区間とlog–log区間#

S^(t)±z1α/2SE[S^(t)]\hat S(t)\pm z_{1-\alpha/2}SE[\hat S(t)]

通常のWald区間は0未満や1超になり得ます。切り詰める方法は簡単ですが被覆が良くないため、確率範囲を自然に保つlog–log変換がよく使われます。

変換g(t)=ln[lnS^(t)]g(t)=\ln[-\ln\hat S(t)]
変換後SESE[g(t)]=1[lnS^(t)]2tjtdjnj(njdj)SE[g(t)]=\sqrt{\frac1{[\ln\hat S(t)]^2}\sum_{t_j\le t}\frac{d_j}{n_j(n_j-d_j)}}
元尺度の区間S^(t)exp[zSE(g)]<S(t)<S^(t)exp[zSE(g)]\hat S(t)^{\exp[zSE(g)]}<S(t)<\hat S(t)^{\exp[-zSE(g)]}

ハザード関数との関係#

生存関数はtまで事象なしの確率、ハザードh(t)はtまで生存した個体が直後に事象を起こす瞬間率です。ハザードは確率そのものではありません。

ハザードh(t)=limΔt0P(tT<t+ΔtTt)Δth(t)=\lim_{\Delta t\to0}\frac{P(t\le T<t+\Delta t\mid T\ge t)}{\Delta t}
密度との関係h(t)=f(t)S(t)=S(t)S(t)h(t)=\frac{f(t)}{S(t)}=-\frac{S'(t)}{S(t)}
累積ハザードH(t)=0th(u)du=lnS(t)H(t)=\int_0^t h(u)du=-\ln S(t)
逆関係S(t)=eH(t)S(t)=e^{-H(t)}

Kaplan–Meier推定前の確認#

  1. 起点、事象、最終追跡時刻を統一
  2. 事象指標と右打ち切りを正しく区別
  3. 対象間の独立性を確認
  4. 打ち切りが条件付きで非情報的か検討
  5. 危険集合数、事象数、打ち切り印、Ŝ(t)、信頼区間を報告
  6. 末尾の少数データを過度に解釈しない