生物統計学 学習ノート概念・導出から実践的な解釈まで

CHAPTER 09 · TOPIC 02

二群の生存曲線比較

各事象時刻の観察・期待事象数を累積するlog-rank検定と、その条件・限界を学びます。

このページの内容
  1. 仮説
  2. H₀下で事象をどう配分するか
  3. 超幾何分布と分散
  4. 全事象時刻を累積する
  5. Z、カイ二乗、p値
  6. 連続性補正
  7. 判読の限界

log-rank検定は二群以上の生存曲線全体を比較します。各事象時刻で、帰無仮説の下で期待される群別事象数と観察事象数の差を累積します。

仮説#

帰無仮説H0:S1(t)=S2(t)for every tH_0:S_1(t)=S_2(t)\quad\text{for every }t
対立仮説H1:S1(t)S2(t)for at least one tH_1:S_1(t)\ne S_2(t)\quad\text{for at least one }t

H₀下で事象をどう配分するか#

合併危険集合nj=nAj+nBjn_j=n_{Aj}+n_{Bj}
合併事象数dj=dAj+dBjd_j=d_{Aj}+d_{Bj}
A群の期待事象数eAj=djnAjnje_{Aj}=d_j\frac{n_{Aj}}{n_j}
観察−期待uj=dAjeAju_j=d_{Aj}-e_{Aj}

H₀では同じ時刻の危険集合内で群による事象率差がないため、合併事象dⱼを各群の危険集合割合で配分します。

超幾何分布と分散#

条件付き分布DAjnAj,nBj,dj,H0Hypergeometric(nj,nAj,dj)D_{Aj}\mid n_{Aj},n_{Bj},d_j,H_0\sim\operatorname{Hypergeometric}(n_j,n_{Aj},d_j)
確率P(DAj=x)=(nAjx)(nBjdjx)(njdj)P(D_{Aj}=x)=\frac{\binom{n_{Aj}}x\binom{n_{Bj}}{d_j-x}}{\binom{n_j}{d_j}}
分散vj=djnAjnjnBjnjnjdjnj1v_j=d_j\frac{n_{Aj}}{n_j}\frac{n_{Bj}}{n_j}\frac{n_j-d_j}{n_j-1}

有限母集団補正(nⱼ−dⱼ)/(nⱼ−1)は、同じ時刻の総事象数dⱼが固定されていることを反映します。

全事象時刻を累積する#

log-rankスコアUL=j(dAjeAj)U_L=\sum_j(d_{Aj}-e_{Aj})
H₀下の平均E(ULH0)=0E(U_L\mid H_0)=0
累積分散Var(ULH0)=jvj\operatorname{Var}(U_L\mid H_0)=\sum_jv_j
標準化Z=ULjvjN(0,1)Z=\frac{U_L}{\sqrt{\sum_jv_j}}\approx N(0,1)

事象がある時刻だけ比較行を作ります。打ち切りだけの時刻はO−Eを生みませんが、以後の危険集合から対象を除くため計算に影響します。

Z、カイ二乗、p値#

例の累積値UL=6.572,Var(UL)=7.884U_L=6.572,\quad\operatorname{Var}(U_L)=7.884
Zz=6.5727.884=2.341z=\frac{6.572}{\sqrt{7.884}}=2.341
等価な統計量χ2=z2=5.479,df=1\chi^2=z^2=5.479,\quad df=1
両側p値p0.019p\approx0.019

二群では独立な比較方向が一つなのでZ²はχ²₁に近似します。正のULはA群の観察事象がH₀期待より多い方向を示しますが、臨床的大きさは時点別生存率やhazard ratioと信頼区間で示します。

連続性補正#

zcc=UL0.5sd(UL)z_{cc}=\frac{|U_L|-0.5}{sd(U_L)}

補正はより保守的ですが、現代の生存解析ソフトは通常未補正log-rank χ²を報告します。使用版を明記し混在させません。

判読の限界#

  • 群間対象が独立し、起点・事象・打ち切り定義が一致
  • 打ち切りが概ね非情報的
  • 検定は曲線全体の差で、全時点差を意味しない
  • 比例ハザードに近いと通常高い検出力
  • 曲線交差では早期と晩期の差が相殺され得る
  • 尾部はnumber at riskが少なく不安定