生物統計学 学習ノート概念・導出から実践的な解釈まで

CHAPTER 03 · TOPIC 03

仮説検定

帰無仮説、片側・両側検定、二種類の過誤、検出力、p値、臨界値、信頼区間を学びます。

このページの内容
  1. 仮説検定の基本手順
  2. 帰無仮説と対立仮説
  3. データの処理法が参照分布を決める
  4. 片側検定と両側検定
  5. 第1種過誤、第2種過誤、検出力
  6. p値とは?
  7. 三つの判断法は同じ対象を見ている
  8. 1. p値法
  9. 2. 臨界値法
  10. 3. 信頼区間法

仮説検定(hypothesis testing)は、未知の母数について検証可能な仮説を立て、標本情報から観察結果がその仮説と整合するかを判断する方法です。仮説の真偽を直接証明するのではなく、仮説が成立するとした場合に現在の結果がどれほど稀かを測ります。

仮説検定の基本手順#

  • 研究問題から帰無仮説H₀と対立仮説H₁(Hₐ)を書く
  • 結果を見る前に有意水準αと片側・両側を決める
  • データ型、研究デザイン、仮定に応じた検定統計量を選ぶ
  • H₀下での統計量の標本分布を定める
  • 標本から統計量とp値を計算し、臨界値や信頼区間とも比較する
  • H₀を棄却するか棄却しないかを判断し、研究問題へ戻って解釈する

帰無仮説と対立仮説#

研究上の問いを、母数や母集団の関係について互いに対立する二つの統計命題へ変換します。

仮説役割代表的な形
帰無仮説H₀検定の出発点。差・関連がない、または母数が指定値に等しいH₀: μ=μ₀
対立仮説H₁/Hₐデータが支持することを期待する方向H₁: μ≠μ₀、μ>μ₀、μ<μ₀
両側対立仮説H0:μ=μ0,H1:μμ0H_0:\mu=\mu_0,\qquad H_1:\mu\ne\mu_0
右側対立仮説H0:μμ0,H1:μ>μ0H_0:\mu\leq\mu_0,\qquad H_1:\mu>\mu_0
左側対立仮説H0:μμ0,H1:μ<μ0H_0:\mu\geq\mu_0,\qquad H_1:\mu<\mu_0

データの処理法が参照分布を決める#

同じデータからも問いに応じて異なる統計量を作れます。Z、t、χ²、Fの選択は元データの名称ではなく、指定した演算後の統計量がH₀下でどの分布に従うかによって決まります。

統計量・研究問題H₀下の主な参照分布
母標準偏差既知の標準化平均標準正規Z分布
未知の母標準偏差を標本標準偏差で推定した平均t分布
標準正規変数の二乗和、分散関連、一部のカテゴリーデータカイ二乗分布
独立な二つの分散成分の比F分布

片側検定と両側検定#

裾はH₀より極端でH₁を支持する方向です。両側検定は「異なるか」を問い棄却域を両端に置き、片側検定は事前に「大きい」または「小さい」という方向を指定します。

方向対立仮説の例棄却域
両側μ≠μ₀左右各α/2
右側μ>μ₀右端にα
左側μ<μ₀左端にα

対称なZまたはt分布で、観察方向が片側H₁と一致し同じ統計量を比較する場合、両側p値は対応する片側p値の通常2倍です。すべての分布や反対方向の観察には適用できません。

ptwo-sided=2PH0(Ttobs)p_{\mathrm{two\text{-}sided}}=2P_{H_0}(T\geq |t_{\mathrm{obs}}|)

第1種過誤、第2種過誤、検出力#

標本には偶然変動があるため統計的判断は誤ることがあります。真の状態と判断を組み合わせて区別します。

判断/真の状態H₀が真H₀が偽
H₀を棄却第1種過誤、確率α正しい判断、検出力1−β
H₀を棄却しない正しい判断、確率1−α第2種過誤、確率β
第1種過誤α=P(reject H0H0 is true)\alpha=P(\text{reject }H_0\mid H_0\text{ is true})
第2種過誤β=P(do not reject H0H0 is false)\beta=P(\text{do not reject }H_0\mid H_0\text{ is false})
統計的検出力Power=1β\operatorname{Power}=1-\beta

他条件が同じで棄却境界だけを動かすと、αを下げるほどβは上がりやすくなります。一方、標本サイズ増加、測定変動の低減、真の効果増大は、αを緩めずに検出力を高めます。

p値とは?#

p値はH₀が真であるという条件下で、観察した検定統計量と同程度またはH₁をより強く支持する極端な結果を得る確率です。「より極端」の方向は事前に決めた片側・両側によります。

p=PH0(test statistic at least as extreme as observed)p=P_{H_0}(\text{test statistic at least as extreme as observed})

分析前にα(例0.05)を決め、p≤αならH₀を棄却し、p>αなら棄却しません。p値が小さいほどH₀に反する証拠は強いものの、効果が大きい、研究品質が高い、臨床的に重要という意味ではありません。

H₀を棄却pαp\leq\alpha
H₀を棄却しないp>αp>\alpha

三つの判断法は同じ対象を見ている#

p値法、臨界値法、信頼区間法はいずれも観察結果をH₀下の標本分布へ戻し、事前に許容した範囲を超えるかを判断します。面積、位置、母数範囲という異なる視点です。

方法比較するものH₀を棄却する条件
p値法観察値以上に極端なH₀下の裾面積p≤α
臨界値法統計量と棄却域の境界臨界値を越えて棄却域へ入る
信頼区間法H₀の母数値が合理的推定範囲にあるか両側検定で帰無値が対応する(1−α)区間外

1. p値法#

観察統計量から、H₀分布において同程度以上に極端な裾面積を計算し、事前に定めたαと比較します。

2. 臨界値法#

αによってH₀分布上に総面積αの棄却域を定め、その境界を臨界値と呼びます。統計量が境界を越えることはp≤αと同値です。

3. 信頼区間法#

同じモデルとαに対応する両側検定では(1−α)×100%信頼区間を作れます。H₀の指定値が区間外なら棄却し、区間内なら棄却しません。

H0:θ=θ0,θ0CI1αptwo-sided<αH_0:\theta=\theta_0,\qquad \theta_0\notin CI_{1-\alpha}\Longleftrightarrow p_{\mathrm{two\text{-}sided}}<\alpha
記号意味
H₀帰無仮説
H₁、Hₐ対立仮説
α有意水準。H₀が真のときの第1種過誤確率
β指定したH₁が真のときの第2種過誤確率
1−β統計的検出力
pH₀下で現在以上に極端な結果を得る確率
CI信頼区間
critical value棄却域の境界