CHAPTER 01 · TOPIC 03
記述統計
中心傾向、ばらつき、歪度、尖度を用いて、標本データの姿を適切に要約し報告する方法を学びます。
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記述統計(descriptive statistics)は、データを整理・要約・表示するための方法です。論文のTable 1に数値を並べるだけではなく、標本にどのようなデータが含まれ、中心がどこにあり、ばらつきがどの程度で、分布が対称か、外れ値があるかを理解する助けになります。
まずデータの種類を確認する#
データの種類によって要約方法は異なります。カテゴリーデータでは度数と割合を、数値データでは中心、ばらつき、分布の形を合わせて示します。標本サイズは通常nで表します。
| データの種類 | 代表的な要約 | 代表的な表示 |
| カテゴリーデータ | 度数、割合 | 度数分布表、棒グラフ |
| 数値データ | 平均値と標準偏差、または中央値と四分位範囲 | ヒストグラム、箱ひげ図、密度図 |
応用:ABC分析
ABC分析はパレート分析とも呼ばれ、多数の対象を、ある指標への寄与度に応じて分類する方法です。影響の大きい少数の対象を特定し、時間、費用、管理資源を重要項目へ優先的に配分します。売上、顧客貢献、費用、問題原因、在庫管理などに利用されます。
- 分析対象と指標を決める。例:商品売上、顧客別売上、問題の発生回数。
- 対象ごとの値を集計し、大きい順に並べて棒グラフにする。
- 各項目の全体に占める割合を求め、順に加算して累積割合を計算する。
- 累積割合を基準にA、B、Cへ分け、分類ごとに管理方法を決める。

| 分類 | 意味 | 対応 |
| A | 数は少ないが結果への寄与が大きい | 優先的に分析し、資源を集中する |
| B | 寄与が中程度 | 定期的に追跡し、通常の管理を行う |
| C | 数は多くても個々の寄与が小さい | 管理を簡素化し、過剰な費用を避ける |
A、B、Cの境界は固定された規則ではありません。図中の70%と90%は一般的な例であり、実際には分析目的、データ特性、管理費用に応じて調整します。
中心傾向:データの中心はどこか?#
中心傾向(central tendency)は、代表的な一つの値でデータの中心位置を表す考え方です。最頻値、中央値、平均値が代表的ですが、それぞれが答える問いは異なるため、習慣だけで選ぶことはできません。
最頻値#
最頻値(mode)は、データ中で最も多く出現する値です。カテゴリーにも数値にも使えます。最頻値がない場合や、複数存在する場合もあります。
中央値#
中央値(median)は、データを小さい順に並べたとき中央に位置する値です。データ数が奇数なら中央の観測値を、偶数なら通常は中央2つの観測値の平均をとります。
| 記号 | 意味 |
| n | データの総数 |
| x₍ₖ₎ | 小さい順に並べたときk番目の観測値 |
| Median | 中央値。偶数個では中央2観測値の平均 |
中央値は極端な値の影響を受けにくいため、分布が大きく歪んでいる場合や外れ値がある場合に、典型的な位置を平均値より適切に表すことがあります。ただし各観測値の大きさをすべて利用するわけではなく、統計的推測では平均値ほど扱いやすくない場合があります。
算術平均#
算術平均(arithmetic mean)は、すべての観測値の合計をデータ数で割った値です。各観測値を利用して全体を反映しますが、極端な値の影響も受けやすい指標です。
| 記号 | 意味 |
| x̄ | 標本の算術平均 |
| xᵢ | i番目の観測値 |
| n | データの総数 |
| Σ | 1番目からn番目までを合計する記号 |
| i | 1からnまでの観測値の番号 |
トリム平均と幾何平均#
トリム平均(trimmed mean)は、データを並べ替え、両端から一定割合の観測値を除いた後に計算する平均です。誤った外れ値を特定して削除する方法ではなく、平均値と中央値の中間に位置する、極端な値に比較的頑健な要約です。
幾何平均(geometric mean)は、成長倍率、比率、対数正規データなど、正の値の乗法的変化を表すのに適しています。すべて正で右に歪んだデータでは、自然対数(ln)をとることがあります。大きな値が圧縮され、分布がより対称または正規分布に近づき、後の分析を行いやすくなる可能性があります。ゼロや負の値を含む場合、通常の対数変換や幾何平均をそのまま使うことはできません。
| 記号 | 意味 |
| G | 幾何平均 |
| xᵢ | i番目の観測値。すべて0より大きい |
| n | データの総数 |
| Π | 1番目からn番目までをすべて掛け合わせる記号 |
| Σ | ここでは各データのlnを合計する記号 |
| ln | 自然対数 |
| exp | lnの逆関数。元の尺度へ戻す |
ばらつき:データは互いにどれほど異なるか?#
中心位置だけではデータを十分に記述できません。2群の平均値が同じでも、ばらつきはまったく異なることがあります。そのため範囲、四分位範囲、分散、標準偏差が必要です。
範囲と四分位範囲#
| 記号 | 意味 |
| xₘₐₓ | 最大値 |
| xₘᵢₙ | 最小値 |
| Q₁ | 第1四分位数。約25%のデータがこの値以下 |
| Q₃ | 第3四分位数。約75%のデータがこの値以下 |
| IQR | 中央50%のデータが含まれる範囲 |
範囲は最大値と最小値しか使わないため、極端な値の影響を受けやすい指標です。四分位範囲(interquartile range, IQR)は中央50%の範囲を表し、極端な値に比較的頑健で、中央値と一緒に報告するのに適しています。
分散と標準偏差#
分散は、各観測値と平均値の間の距離を二乗して、ばらつきを測ります。標準偏差は分散の平方根であり、元のデータと同じ単位をもつため、通常はより解釈しやすい指標です。
どちらの式も、各データが平均値からどれほど離れているかを求め、その距離を二乗して合計します。結果が大きいほどデータは広く散らばっています。最後に平方根をとることで、標準偏差の単位を元のデータと同じに戻します。
| 記号 | 意味 |
| N、n | 母集団の大きさと標本サイズ |
| xᵢ | i番目の観測値 |
| μ、x̄ | 母平均と標本平均 |
| σ²、s² | 母分散と標本分散 |
| σ、s | 母標準偏差と標本標準偏差 |
| Σ | 平均値からの二乗距離をすべて合計する |
| n−1 | 標本分散で用いる自由度 |
変動係数#
変動係数(coefficient of variation, CV)は、平均値に対する標準偏差の大きさで相対的なばらつきを表し、通常は百分率で示します。単位や平均水準が異なり、意味のある絶対零点をもつ正のデータの比較に適しています。平均値がゼロに近い場合や負の値をとる場合は解釈しにくくなります。
| 記号 | 意味 |
| CV | 変動係数。通常は百分率で表示 |
| s | 標本標準偏差 |
| x̄ | 標本平均 |
| ×100% | 平均値に対する標準偏差の割合を百分率に変換する |
分布の形:歪度と尖度#
歪度(skewness)は分布の非対称性を表します。符号は長い裾の方向で判断します。左側の裾が長ければ負の歪み、右側が長ければ正の歪みで、対称分布の歪度は0に近くなります。

この式は、平均値からの距離を標準化した後に3乗します。3乗は正負の方向を保つため、左右の長い裾が相殺されず、符号によって歪みの方向を表せます。
| 記号 | 意味 |
| γ₁ | 母集団の歪度 |
| X | 確率変数 |
| E[·] | 期待値。直感的には長期的な平均 |
| μ、σ | 母平均と母標準偏差 |
| μ₃ | 3次中心モーメント E[(X−μ)³] |
| κ₂、κ₃ | 第2・第3キュムラント。κ₂は分散、κ₃は3次中心モーメント |
尖度(kurtosis)は曲線の尖り具合と説明されることがありますが、より正確には分布の裾の重さと極端な値が現れる傾向を反映します。中央の高さが似ていても尖度が異なる分布があるため、頂点だけで判断はできません。
尖度では4乗するため、平均値から遠い観測値が大きく強調され、裾と極端な値の影響を表します。3を引くのは、正規分布の超過尖度を比較基準の0にするためです。
| 記号 | 意味 |
| β₂ | 尖度。正規分布では3 |
| γ₂ | 超過尖度 β₂−3。正規分布を0とする |
| X | 確率変数 |
| E[·] | 期待値 |
| μ、σ | 母平均と母標準偏差 |
正規分布の尖度β₂は3です。超過尖度γ₂を使う場合、正規分布は0になります。ソフトウェアの出力を読むときは、尖度と超過尖度のどちらが報告されているかを確認してください。
記述統計をどのように報告するか?#
- データの種類と測定尺度を確認する。
- カテゴリーデータは度数と割合を報告する。
- 数値データは中心とばらつきを合わせて報告する。
- 分布図と外れ値を確認し、平均値と標準偏差、または中央値と四分位範囲を選ぶ。
- 必要に応じて歪度、尖度、適切なグラフを追加するが、単一の統計量だけで分布を判断しない。