生物統計学 学習ノート概念・導出から実践的な解釈まで

CHAPTER 06 · TOPIC 03

Welch ANOVA:不等分散の平均比較

等分散を仮定せず、標本数と群別分散に応じた重みで複数群の平均を比較します。

このページの内容
  1. Welch ANOVAを検討する場面
  2. 仮説と条件
  3. 精確な群へ大きな重みを与える
  4. Welch F統計量
  5. 従来ANOVAとの比較
  6. 全体検定が有意になった後

Welch ANOVAは複数の独立群の母平均を比較しながら、各群の分散が等しいことを要求しません。標準偏差が異なり、特に標本数も不均衡な場合、従来の一元配置ANOVAより適しています。

Welch ANOVAを検討する場面#

  • 独立した二群以上の母平均を比較する
  • 目的変数が量的で平均に意味がある
  • 群分散が異なる、または等分散の根拠が乏しい
  • 標本数が不均衡で、特に高分散群の標本数が小さい

Welch法は非正規性への万能な代替ではありません。独立性は依然必要で、強い歪み、極端な外れ値、小標本では図形診断、変換、頑健法、研究課題に合うノンパラメトリック法も検討します。

仮説と条件#

帰無仮説H0:μ1=μ2==μkH_0:\mu_1=\mu_2=\cdots=\mu_k
対立仮説H1:すべての μj が等しいわけではないH_1:\text{すべての }\mu_j\text{ が等しいわけではない}
条件Welch ANOVAの要件
独立性各観測は独立で一群だけに属する
目的変数平均に意味がある量的変数
正規性各群の誤差が概ね正規。大標本では比較的頑健
等分散性要求しない

精確な群へ大きな重みを与える#

第j群平均の推定分散は概ねsⱼ²/nⱼです。標本数が多い、または標本分散が小さい群ほど平均推定が精確なので、逆分散に比例する大きな重みを与えます。

第j群の重みwj=njsj2w_j=\frac{n_j}{s_j^2}
総重みW=j=1kwjW=\sum_{j=1}^{k}w_j
加重総平均Xˉw=j=1kwjXˉjW\bar X_w=\frac{\sum_{j=1}^{k}w_j\bar X_j}{W}

Welch F統計量#

各群平均と加重総平均の差を重み付けし、分散推定の不確実性を反映する補正量Aで分母と自由度を調整します。

補正量A=j=1k(1wj/W)2nj1A=\sum_{j=1}^{k}\frac{(1-w_j/W)^2}{n_j-1}
Welch FFW=1k1j=1kwj(XˉjXˉw)21+2(k2)k21AF_W=\frac{\dfrac1{k-1}\sum_{j=1}^{k}w_j(\bar X_j-\bar X_w)^2}{1+\dfrac{2(k-2)}{k^2-1}A}
分子自由度ν1=k1\nu_1=k-1
近似分母自由度ν2=k213A\nu_2=\frac{k^2-1}{3A}

F分布の右裾からp値を求めます。有意でも結論は少なくとも一群の平均が異なるというだけで、差の位置は分かりません。

従来ANOVAとの比較#

項目従来の一元配置ANOVAWelch ANOVA
分散仮定全群で等しい異なってよい
群内変動共通MSEへ合併nⱼ/sⱼ²で群別に重み付け
自由度k−1、n−kk−1、Welch–Satterthwaite近似
主な注意不等分散+不均衡で歪み得る小標本、強い歪み、外れ値には依然注意

全体検定が有意になった後#

共通MSEを仮定するLSD、pooled t、通常のTukey HSDをそのまま使いません。全ペア比較には、不等分散と不均衡標本を許し多重性も調整するGames–Howell法がよく使われます。

  1. 各群のn、平均、標準偏差、分布を報告
  2. Welch F、分子・近似分母自由度、p値を報告
  3. 有意ならGames–Howellまたは計画済みの不等分散対比を実施
  4. 平均差、信頼区間、調整p値を併記